《図像学入門》マチリンの楽しい絵解き物語:西洋編 Page1・2
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目次 切ない年増の恋:ディアナとヴィーナスの悲恋 参照:ヴィーナス(ウェヌス=アフロディテ):ディアナ(アルテミス):アテナ(=ミネルヴァ) マルス(アレス):ウルカヌス(へパイトス):アポロ(アポロン):ユピテル(ゼウス):ユノ(ヘラ) 文中ではギリシャ読み、ローマ読み、英語読みを適当に使っています。 ときどきゴチャゴチャになりますが、お許しください。
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切ない年増の恋:ディアナとヴィーナスの悲恋 ディアナと言えば男嫌いの狩の神だし、ヴィーナスと言えば夫がありながら 浮気しまくる愛の女神だし、悲恋なんて無さそうに見えますが、これがある んですね。もっともヴィーナスのほうはマット・ディロンのような可愛いア ホ面(絵から想像するに)のマルスとずっと良い仲だし、人間の男との間に は英雄も産んでいるし、ふられたのは1度だけなので、まず、ディアナから 書きます。彼女のたった1度の恋は悲恋でした。グスッ。 まずはディアナがいかに男嫌いの堅物だったかを語るエピソードから。 【ディアナとアクタイオン】 処女性の象徴として知られているディアナはいつもお供のニンフたちと共に 描かれますが、もともと好色な彼女たちに処女性を押しつけたので、たぶん お局さま的に嫌われていたと思う。例えば、従者のカリストの場合。ユピテ ルはカリストにひとめぼれして、こともあろうにディアナに姿を変えて近づ きます(いつもの変身レイプ)。 騙されたカリストは犯されて妊娠します。でも、ディアナは妊娠したカリス トを許さずに熊に変えてしまう。この辺は熊に変えたのは嫉妬に狂ったユピ テルの妻ユノだという説もあります。ま、そういうキツイ女だったわけです。 キツイ女ではあるけれど、ディアナには引っ込み思案な恋愛恐怖症的なとこ ろもあります。彼女は母親のヘラから虐待を受けて育ったからかもしれませ ん。ユノはユピテルが外で生ませた子供を虐待しました。 だから入浴姿をちらっと見られただけでパニックになってしまってアクタイ オンという素敵な王子さまを鹿に変えてしまった程。頭が鹿に変った男が猟 犬に追われている絵はこの神話を描いていますが、このシーンを描く画家は ディアナとニンフたちの入浴シーンが目当てで王子の運命には関心は薄いよ うです。 Diana Surprised Bathing by ActeonCamille Corot 1836(上から2番目の絵) メトロポリタン美術館のコローの絵では、森の方が女より好きなのか、入浴 するニンフとディアナは小さく慎み深く描かれている。アクタイオンは右上 に猟犬を一匹つれて描かれているが、そう言われないと解らない。こちらの 方がドラマチック。 Joachim Anthoniesz. Wtewael (1566-1638), Actaeon Watching Diana すると怒ったディアナが王子を鹿に変え、王子は自分の猟犬にかみ殺される。 The Death of Actaeon1565-76頃 こういう晩熟のディアナが恋をした相手は羊飼いでした。女神が野山を歩い て出会う可能性のある人間の男といえば羊飼いしかありません。(ヴィーナ スのお相手も羊飼い) 【ディアナとエンディミオン(Endymion)】 このエンディミオンという羊飼いはは絶世の美男子でした。英国の詩人、キ ーツの叙事詩『エンディミオン』の主人公にもなっています。 ウォルター・クレインの【ディアナとエンディミオン】 英国の画家クレインが1883年に描いたこの絵は、猟犬を連れたディアナが初 めてエンディミオンを見たときではないでしょうか。彼は寝ていますね。実 はこの羊飼くんは永遠の眠りについているのです。エンディミオンは永遠の 若さを願ってしまって、その代わりに永遠に眠ることになってしまったので す。愚かなことです。若くても眠っていては恋はできません。年をとっても 目覚めていればチャンスはあるってもんです。ねえ、これじゃあ、死んでい るのと同じではないか、と思いませんか? だから、ディアナが毎晩、眠る彼を抱擁しても純潔は守られた、いや破られ なかったわけです。ああ、切ないですよね。この恋愛に走るというディアナ らしからぬ振る舞いは月の女神セレナとの混同から来ているといいますが、 一度くらい恋したって良いでしょう。でも、内気な彼女、眠っていたから恋 に落ちたのかも知れません。起きたら逃げたかもしれない。切ないですね。 もともとディアナはイオニアの多産の神なのです。双子のアポロにはファエ トンという息子ができたのに彼女は母親にはなりませんでした。 クレインは1881年に森を1人で歩くディアナの絵を描きました。私の大好き な絵ですが、個人のコレクションなので絵が保護されています。ちょっと面 倒えすが、このサイトでは見れるので上から2番目の絵をクリックして下さ い。一人ぼっちのディアナの詩情漂うこの絵を見るとエンディミオンに恋し たひとりぼっちの女性の気持が解るような気がします。 処女性といえば双璧のアテナ(=ミネルヴァ)には恋の噂もありません。少 女時代に鍛冶屋のウルカヌスに犯されかかったのがトラウマになったのでしょ う。父ユピテルの頭をかち割って鎧兜をつけて生まれた強い女アテナ(=ミ ネルヴァ)。よりにもよって醜男の、ユノの息子ウルカヌスに襲われるなん て! ここにもお腹を痛めた子供以外は愛さない(といっても男子しかユノは産ん でいない)ユノの執念が感じられます。ウルカヌスはユノの実の息子です。 正に女の敵は女。私のホームページの名前は『ミネルヴァ・ガーディアンズ』。 名は体を表すか…… 切ないです。つけた当時はここまで男に縁がない女神 だとは思わなかったので・・・。(切ない、ばかり何度もでてきましたね。) 【ヴィーナスとアキニセス】 まずはこの絵を開いてください。この上品な女性があのいつも裸んぼうのヴィ ーナスだとは誰が思うでしょう。別題を『冬の茨の荒野を横切って』という この絵を描いたのは19世紀後半から20世紀の英国の画家リッチモンド。前出 のクレインとほとんど同じ時期を生きた人です。 実はリッチモンド、正確にはWilliam Blake Richmondといいます。画家の 父親は尊敬するウイリアム・ブレイクにあやかって彼のミドルネームをBlake とし、イタリアに修行に行かせ、天才教育をしました。 リッチモンドはイタリアではジョットのフレスコ画の模写をして勉強したの で色合いに同時代の準英国風なラファエロ前派とは違った味わいがありますね。 白い服のドレープもイタリア仕込みという感じです。神話の正確さよりヴィー ナスの美しさに焦点がおかれていますが、人間に惚れたヴィーナス初々しいで す。アキニセスは右上にいます。確かにエンディミオンの方が良い男。 さて、手の早いヴィーナスですからアキニセスの寝椅子ですぐさま子供を作り ました。この子がローマ人の伝説上の父祖であるトロイアの王子アイネイアス。 イデ山の羊飼いの息子がトロイアの王子というのはちょっと結びつけるのが難 しいですが、トロイアがギリシャによって滅亡した後ローマの建国までヴィー ナスがそれとなく導いたので、ヴィーナスとアキニセスが寝台に横たわる絵に は『ラテン民族ここに始まれり』とも書かれています。不倫も子供ができると 祝福されます。 なになに、冬の茨の荒野なのに何故バラが咲いているのかですって?良い所に 目をつけました。白いバラですよね。バラはウエヌスの聖木だからです。 この恋は成就されたので悲恋ではないですね。でも、荒野で出会う羊飼いとい うパターンがディアナの場合とそっくりなので紹介しました。悲恋は次の方。 【ヴィーナスとアドニス】 ヴィーナスが美少年アドニスに恋をしたのはクピドの矢で怪我をしたからでし た。ですから、ディアナの時と同じく、一方的な愛なのです。片思いというも のは文学者や画家の心を惹くのでしょう、この主題には多くの絵が残っていま す。その中でもっとも切ないのはヴィーナスが狩に出て行く若者を止めようと するシーン。彼女の心配した通り、アドニスは猪に突き殺されてしまうのです。 まずはルーベンス。ヴィーナスとアドニス ルーベンスにしては初々しい可愛いヴィーナス。「行かないでえん」クピドも 足にしがみついて「いっちゃダメ〜」。アドニスは優しく振り向き、「大丈夫 だってば」。猟犬までもこちらを向いて、「今日はオウチにいるのかな?」で も、このストーリーは嘘。 次はティツイアーノ。ヴィーナスとアドニス> えっ、後姿より、胸の見えるほうが良いですって。今はそんなところを研究す る場合ではありません。このアドニスの固い顔、はやる心を抑えられない力強 い猟犬たち。ひっくりかえりそうになりながらアドニスを止めたい一心のヴィ ーナス。これが本当のシーン。 この絵は何気に深い意味をこめて描かれているんです。左奥を見て下さい。ク ピドは寝ています。弓矢を下に置いて。これは絵の約束事でクピドが寝ている ときは愛が無いということなのです。アドニスは狩に行きたいだけではなく、 ヴィーナスには未練がなかったということ。切ないですね。 アドニスは狩で猪に襲われます。瀕死のアドニスのもとに駆けつけるときにヴィ ーナスの足に聖木のバラの刺がささります。その血で白いバラが赤くなったそ うです。アドニスの血からはアネモネの花が生まれたといいます。やはり、切 ない恋ですね! Back Home to ミネルヴァ・ガーディアンズ